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東京地方裁判所 昭和24年(ヨ)530号・昭24年(ヨ)2252号 判決

債権者 井谷ろく 外一名

参加人 加藤文博

債務者 大島代次郎 外一名

一、主  文

債権者等及び参加人の本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は債権者等及び参加人の負担とする。

二、事  実

債権者等代理人は「夫々執行吏保管に係る別紙目録<省略>及び図面表示の宅地中(イ)の部分を債権者井谷に、同(ロ)の部分を債権者杉山に夫々店舗兼住宅用仮建築物の敷地として使用することを許す。債権者等は右各地上に存する塀その他の工作物を撤去することができる。但しその後本案訴訟に於て債権者等敗訴の判決が確定したときは、執行吏は右地上に存する債権者等の建物を收去し、債権者等が右土地使用の爲撤去した工作物を原状に回復させ且つ右土地を債務者等に引渡さなければならない」との趣旨の判決を求め、その理由として、(一)訴外井谷彦太郎は大正十二年十月二十九日大島亀之助から前記宅地中(イ)の部分(但し当時は十坪あつたが区劃整理により現在の如くなつた)を賃料一ケ月金十六円八十九銭(その後金二十二円五十銭に改定された)で期間の定めなく賃借し、同地上に建物を所有していたが、昭和十五年六月十日死亡し、長男寅彦がその家督相続をしてその地位を承継したところ、右建物は昭和十九年十一月二十九日戰災により滅失した。その後同人は引き続き右借地権を有していたところ、昭和二十年一月一日死亡(ついでその妻輝子も選定されない間に死亡)したので、更にその母である債権者井谷ろくがその家督相続をなし、右借地権者たる地位を承継して今日に至つている。次に(二)債権者杉山常次郎は大正十二年十一月四日大島亀之助から前記宅地中(ロ)の部分(当時は十坪七合五勺あつたが区劃整理により現在の坪数になつた)を賃料一ケ月金十四円九銭で期間を定めず賃借し、同地上に建物を所有していたところ、右建物は昭和十九年十一月二十九日戰災により燒失したが、同債権者はその後引き続き右借地権を保有している。他方前記大島亀之助は昭和二十二年四月十一日債務者大島代次郎に右宅地全部を讓渡した。よつて同債務者は債権者等に対する土地賃貸人たる地位を承継したのであるが、同月中旬以來右土地を見本家屋実物展に使用させる等自己の支配下におき、同年九月頃にはこれを高さ約六尺の木造の塀を以て囲んで野外写眞場の施設をなし、更に翌二十三年五月債務者澁谷に右施設を貸與するに至つた。又債務者澁谷はこれを利用して野外写眞業(目下休業中ではあるが)を行つている。このようなわけで債務者等は共に債権者等の有する借地権の行使を妨げているので、債権者等は同人等に対して右各土地部分の明渡を求める本訴を提起して爭つているのであるが、夫々次のような事情で早急に右土地を使用する必要があり、とうてい右本案判決確定までこのままで待つことができないのである。即ち(一)債権者井谷は老齢であつて生業なく、右借地上に建物を建てゝ実子である岡邦彦に印判業を営ませる以外に自己及び多数家族の生計を立てることができない。しかも罹災以來の徒食の爲今や賣却すべき財産も乏しくなり、又借財のあても限度に近附いているのであつて、もし現状のまま推移して生活に窮するに至つたならば、その後に至り仮令債務者から金銭により損害の填補を受け得るとしてももはや及ばないことになるのである。次に(二)債権者杉山は古くから参加人に右借地上の建物を貸與し、ここで理髪業を営ませていた関係上、引き続き同人にその営業継続の便をはかつてやる必要がある。これら債権者等各自に特有の事情に加うるに、債権者等は夫々その借地を使用し得ないことにより收益を妨げられ、その損失は莫大である。これに反し債務者大島は果実商千匹屋を経営し、債務者澁谷も肩書地に営業所を有して写眞業を営んでおり、共に本件土地を使用するとしても副業に過ぎないし、なお債務者等は現在本件宅地を利用していないので、債権者等が一時その使用を許されるとしても債務者等にとつて殆ど損害はなく、物資の活用を得て却つて社会的に得策というべきである。このようなわけで債権者等の著しい損害を避ける爲の仮の地位を定める仮処分として前記のような判決を求める次第であると陳述し、債務者等の抗弁に対し、その主張事実中債権者等が債務者大島から、井谷は昭和二十三年五月二十八日杉山は二十九日に書面を、更に債権者杉山が同債務者から翌二十四年四月十六日債務者主張のような書面を夫々受領したことを認めるが、その余の点は全部これを否認する。右第一の書面は罹災都市借地借家臨時処理法(以下処理法と略記する)による申出でなくて、債権者井谷から発した甲第十号証の四の書面に対する返書に兼ねて通常の借地権讓受の申込をしたものに過ぎないから、これによつて同法所定の効果を生ずることはない。債務者等は債権者杉山が本件借地を第三者たる杉山雄一郎に轉貸したというけれども、右雄一郎は同債権者の長男であつて、債権者杉山はその名義を使用して前記借地上に建物を建築登記していたものに過ぎないと述べた。<立証省略>

参加人代理人は「参加人に対し前記宅地の内(ロ)の部分を店舗兼住宅用仮建築物の敷地として使用することを許す」という他なお債権者等申請第二段以下(但し「債権者等」を「参加人」と読み替える)と同趣旨の判決を求め、その理由として、借地権の存在に関する債権者杉山の主張を援用し、なお、参加人先代嘉平は早くより同債権者から右地上建物を賃借し、同人死亡後参加人が家督相続人としてその地位を承継していたものであるが、右建物は前記の如く罹災燒失した。よつて参加人は昭和二十三年初頃同債権者に対し右借地権讓渡の申出をなしたところ債権者杉山がこれに應じ、翌二十四年八月十一日右権利讓渡の契約が成立したので、同月二十五日、当時右土地所有者になつていた債務者大島にこれを通知した。しかるに債務者等は債権者等主張の如く右土地を占拠しているので、参加人は本訴に於ても債権者債務者間の訴訟に参加して右借地の明渡を求めているが、次のようなわけで右本訴確定以前にこの土地を使用する必要がある。即ち参加人は昭和十八年十一月徴用を受けるまで右の場所で理髪業をしていたのであつて、その後止むなく家旅四名を肩書地に疎開させたが、終戰後は再び本件の場所でもとの仕事に從うの外なく、その古い顧客も殆んど右の附近に残つている。從つて現在は毎日同所附近まで出かけて理髪をなし辛うじて糊口をしのいでいるが、その爲には朝七時に家を出て夜十時頃に帰宅するという生活を続けなければならないのみならず、同所附近には次第に同業者も増加しているので、一日も早くもとの場所に店舗を再開しなければせつかくの顧客をもこれらに奪われ、やがては家業を断念しなければならないようになるおそれがある。加うるに参加人が営業を妨げられていることによる損害は大きいのに対し債務者等の本件土地利用は要するに前示の如く副業であつてその使用をしなくても殆ど苦痛がない。この両者の利害を比較しても参加人に即時使用の仮の地位を定める必要がある。と陳述した。<立証省略>

債務者等代理人は主文第一項と同趣旨の判決を求め、答弁として、債権者等主張の事実中債権者杉山がその主張の土地部分に建物を所有していたことを否認する。債務者大島が大島亀之助から本件宅地を讓受けたのは昭和二十一年五月二十日である。債権者等が仮処分を必要とする事由として述べたような事実の存することはこれを知らない。その余の点は全部これを認める。債権者等は夫々その主張する土地部分につき借地権を有していたのであるが、同地上建物罹災後何れも借地部分を放置して使用せずこれにより暗黙裡に右権利を抛棄した。仮に右抛棄の事実が認められないとしても債権者杉山常次郎は元來右借地上に建物を所有しておらず、右土地上に存した建物は訴外杉山雄一郎のものであつたのであるが、このように借地上に自己の建物を有しなかつた借地人は処理法第十條の保護を受けないものというべきであるから同債権者は土地讓受人たる債務者大島に借地権を対抗し得ない。仮にこの点も理由がないとしても、債務者大島は昭和二十一年七月一日前から処理法施行の際まで引き続き本件罹災建物の跡地を建物所有の目的で使用していたので、同法第二十九條によりその使用権を延長せられたのであるが、昭和二十三年五月二十七日債権者等に対し同法第三十二條第三條により書面を以て前記各借地権讓渡の申出をなし、該書面は井谷に翌二十八日杉山に二十九日到達した。しかるに債権者等は正当な事由に基いてこれを拒絶しなかつたから、右借地権はこれにより債権者等から失われた。仮にこの点もまた採用され得ないとしても債権者杉山が前記のように訴外杉山雄一郎に対し右地上に建築することを許していたことから推測すると同人はその借地を地主の承諾なく右訴外人に轉貸したものというべきであるから、債務者大島は昭和二十四年四月十四日同債権者に対し書面を以て轉貸を理由に右土地賃貸借契約解除の通知を発し、右は同月十六日同人に到達した。從つて同人との間の契約はこれを以て終了したものである。次に参加人主張の事実中債務者が昭和二十四年八月二十五日参加人からその主張のような通知を受けたことを認めるが、その余の点はこれを知らない。仮に債権者杉山がその主張のような借地権を有し、これを参加人に讓渡(日時の点を除く)したものと認められるとしても、右讓渡は既に昭和二十三年五月十九日に爲され右が処理法による讓渡であるなら参加人は右の事実を直ちに債務者に通知する義務があるに拘らず、翌年八月二十五日に至るまでこれをなさなかつたのであるが、これによつてみれば右は処理法に基く讓渡でなく、通常の民法上の讓渡契約であるとみられるから、これを承諾しない債務者に対抗し得ないものである。なお本件仮処分の必要性の有無は参加人につき決すべきものではなく、債権者杉山について判断すべきであると陳述した。<立証省略>

三、理  由

(一)  先ず債権者井谷につき案ずるに、井谷彦太郎が大正十二年十月二十九日大島亀之助から債権者主張の宅地中(イ)の部分をその主張のような條件で賃借し、同地上に建物を所有していたが、昭和十五年六月十日死亡し、長男寅彦がその家督相続をして右借地人たる地位を承継したこと、右建物が昭和十九年十一月二十九日戰災により滅失したこと及び同人も昭和二十年一月一日死亡し、その母である債権者がその家督相続をしてその地位を承継したことは当事者間に爭がない。しかるに債務者は債権者が右戰災後右土地を放置して暗黙裡に債務者に対しその借地権抛棄の意思表示をしたというけれども証人岡邦彦の証言により成立を認め得る甲第六号証の一、二及び同証人の証言によれば、債権者の次男である岡邦彦が昭和二十一年九月頃債権者に代り右借地の整地等に著手したことが認められるし、終戰後の一般社会状況に照せば借地人がその頃まで借地に手を加えなかつたことは未だ必ずしもこれを責められないからそれのみによつては右土地に関する権利を抛棄する意思表示があつたものとするわけにはいかない。なおその他には債権者が右借地権を喪失する原因となるような事由につき主張も疎明もないから同人は引き続きこれを保有するものといわなければならない。而して債務者大島代次郎が右大島亀之助から右宅地全部を讓受けたことは、当事者間に爭がなく、成立に爭のない甲第一号証、証人大島誠一郎の証言により成立を認め得る乙第一号証及び同証人の証言によれば、右は昭和二十一年五月二十日であることが認められるから、同債務者はこれにより債権者に対する亀之助の土地賃貸人たる地位を承継したものである。

これに対し債務者大島は昭和二十一年七月一日前から引き続き本件宅地を建物所有の目的で使用していたとなし、これを根拠として右借地権の讓渡を受けたと主張するのであつて、成立に爭のない乙第四号証並びに証人大道寺忠彦、市川正三郎及び大島誠一郎の証言によれば、本件宅地は戰災後残土、瓦礫、塵埃等によつて約三尺の高さに覆われていたので、同債務者は昭和二十一年初これを取除いて所謂整地をなし、周囲に竹矢來を施し、五月二十日その東側半分(本件係爭中の(イ)(ロ)を含まない部分)に建築申請をなし、材木等を搬入して六月頃その部分に建築に着手したことが認められるが右の程度に土地に対して手を加えたからといつて、これを以て未だ処理法第三十二條に所謂建物所有の目的で土地を使用するものとは称し難いからこの点に関する債務者の抗弁は爾余の点につき考えるまでもなく理由がない。しかるに債務者は昭和二十二年四月中旬以來右(イ)(ロ)の部分を含む本件土地を自己の支配下におき、債権者主張の如く債務者澁谷と共にこれを占拠していることは当事者間に爭がないから債権者は債務者等に対し、その明渡を求める権利があるといわなければならない。

よつて、債権者の求めるような仮処分の必要の有無につき檢するに、凡そ仮の地位を定める仮処分は單なる執行の保全を目的とするものに較べてこれをうけることが債務者に甚だしい苦痛を與えることが多いから、債権者側に存するその必要性を考えるに当つてもこれを嚴格に解しなければならないのであるが、特にその使用権の有無が係爭の目的になつている土地につき仮に債権者に建築を許す如き仮処分にあつては、單に占有状態に変更を生ずるのみでなくてその形状に著しい変化を生じ將來これを復旧するに当り多くの費用及び労力を要するのが通常であるから、高度の必要性、例えば右仮処分をしなければ寢所にも事欠き生命の危險にさらされるとか、家を建てられないことにより急激に多大の財産を失い、明日にも路頭に迷わなければならなくなる等の事由のあることを要件とするものといわなければならない。これを本件に照すに証人岡邦彦の証言によれば債権者の家旅は現在六疊二室四疊半一室に店員共十三名の者が起居していること、債権者の夫は四十余年間本件土地で印判業を営んでいたものであつて、この土地に店舗を再開し、次男岡邦彦にこれを経営させれば古い顧客もあつて生活の資を得ることができること及び岡は本件土地に建築しようとして許可その他の準備を整えたが現在本件紛爭のためその実施を妨げられていることが認められる。しかしながら右は主として現在の生活を向上させようとする事由たるに止まるし、なお所謂筍生活により次第に生活の資を失うに至るべきことを想像することはできるが、他方成立に爭のない乙第十一、第十二号証及び証人大島誠一郎の証言を綜合すれば、債権者は東京都中央区日本橋本町四丁目三番地に建坪十八坪二階十八坪の店舗を有していたところ昭和二十三年十二月十六日これを訴外株式会社守随彦太郎商店に賣却したこと及び現在同都千代田区神田鍜治町三丁目六番地に建坪二十一坪三合二勺の住宅を所有していることが認められ、これによつてみれば他に反証がない限り債権者の経済状態が特に切迫しているとまではいえないから、更に以上の諸点に債権者のいう両当事者の財力の比較その他の事情を考え併せ得るとしても、未だ債権者が本案係爭解決前本件土地に建築すること必要とする程度にあるものとはいえないのであつて同債権者の申請は仮処分の必要を欠くものという他ない。

(二)  次に債権者杉山につき按ずるに債権者が大正十二年十一月四日大島亀之助から前記宅地中(ロ)の部分をその主張のような條件で賃借したことは当事者間に爭がなく、参加人加藤文博訊問の結果によれば債権者は同地上に建物を所有していたことが認められる。もつとも甲第四号証の二には当時の建物所有者として杉山雄一郎の名義が記載されているけれども、成立に爭のない甲第五号証の三によれば右雄一郎は債権者の長男であることが認められ建物をその子の名義で所有することはままあることであるから、右は先の認定に矛盾するものとはいえないし、その他には右認定を覆えす資料はない。しかるに右建物が昭和十九年十一月二十九日戰災により燒失したことは当事者間に爭がない。而して参加人加藤文博本人訊問の結果によれば債権者が昭和二十一年六、七月頃本件土地上に「杉山常次郎使用地」と書いた立札を立てたことが認められ、当時の状況からみれば債権者がその頃までその借地を放置したとしても未だ黙示的にも右借地権抛棄の意思表示があつたということはできないし、その他に債権者が右借地権を失つた事実に関しては主張も疏明もないから同人は引き続きこれを保有していたものといわなければならない。更に債務者大島が昭和二十一年五月二十日亀之助から右宅地全部を讓受けたことは前認定の通りであるから、債務者は右土地賃貸人たる地位を承継したものであつて、この場合債権者が右借地権につき処理法第十條による対抗力を有することは当然といわなければならない。

進んで債務者は昭和二十一年七月一日前から引き続き本件宅地全部を建物所有の目的で使用していたと主張するけれども、先に債権者井谷につき判断した如く未だそのような事実を認めるに足らないから、これを前提とする債務者の主張もまた理由がない。更に債務者は債権者が右土地を杉山雄一郎に轉貸したというけれども前記の如く同地上の建物は債権者の所有であるし、その他に右主張を疏明する資料がないからこの点も爾余の判断をまつまでもなく理由がない。

しかしながら参加人加藤文博本人訊問の結果により成立を認め得る丙第一、第二号証に同人の供述を綜合すれば、債権者は明治年代以來右(ロ)の借地上の建物を参加人先代加藤嘉平に、更にその後引き続きその相続人たる参加人に貸與して前記罹災の時に至つた関係があるところ昭和二十三年五月頃参加人から借地権讓渡の申出があつたのでこれに應じ同月十九日頃右当事者間に右借地権を讓渡すべき旨の合意を爲し、翌二十四年八月十一日に至り右讓渡を完了したことが認められ、これに反する資料はない。從つて債権者はもはや借地権を有しないものであるから、その本件申請はその他の点を按ずるまでもなく理由がない。

(三)  更に参加人につき按ずるに右の如く参加人は債権者杉山から前記宅地中(ロ)の部分につき借地権を取得したものである。而して参加人が昭和二十四年八月二十五日債務者大島に対しその旨の通知をしたことは当事者間に爭がないから右借地権の移轉及びその通知は処理法第三條の讓渡及び第四條の通知として間然するところがないものというべく、この点に関し債務者は、右通知は前記昭和二十三年五月十九日の合意後直ちになさるべきものであるとなし、これがなされなかつた以上右借地権讓渡を以て民法上の讓渡と推測すべきであるというけれどもこの一事を以てかような推測を爲し得ないことはいうまでもない。而して債務者等が右土地を占拠していることは先に認定した通りであるから、参加人は同人等に対しその明渡を求める権利を有するものである。

よつて進んで仮処分の必要性の点を論ずるのであるが債務者は参加人の権利に基く仮処分の必要性の有無は債権者杉山につき考えるべきであるというけれどもこのような結論を導くに足る根拠はない。從つて参加人につき事情をみるに、参加人加藤本人訊問の結果によれば、同人は明治年間からこの土地で理髪業をしていた加藤嘉平の養子であつて、建物罹災までここで同業を営み今なおこの附近に顧客が多く、現にその一人が本件借地に建築する資金の融通方を申出ていること、現在参加人は毎日現住所から本件土地附近まで出かけて來てこれらの顧客先をまわつて理髪に從事し、これにより一家の生活を立てていること及びその通勤時間が長くかかるのに加えて、店舗の設備がない爲せつかくの顧客が減少する傾向にあることが認められ、右認定を飜えす資料は存しない。これによれば参加人が仮処分により本件借地上に店舗を建てることを求めているのは單にその生活を向上させようということのみでなく、むしろこれにより一家の生活の責任者として前途の不安を軽減しようとしているものというべく、その希望の切なることを察するに余あるけれども、そうかといつて全資料によるも未だ早急に現在の状態が破滅に瀕し、本訴の確定を待つていると一家の生計が立たなくなるというような事情についてはこれを認めるに足る疏明がないのでその他に参加人のいう諸事情を加味して考えてみても、なお申請の如き仮処分を行うにはその必要度が薄弱であるといわざるを得ないのである。

よつて債権者等及び参加人の本件申請は何れもその理由がないからこれを却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十四條第九十三條を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 柳川眞佐夫 中島一郎 斉藤平伍)

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